あの頃、一日一日が嫌で嫌でたまらなかった
でも、今思い出すと一瞬の出来事だったようにも思える
楽しくない。毎日が嫌。朝になるのが嫌だと言っていた頃
けど、やっぱり毎日は楽しかったんだと思う
だから、僕は言う

「昔はなんであんなに楽しくないのに楽しかったんだろうな」

だから、彼は言う

「毎日が冒険だったんだよ」

お互いに苦笑する

「結局、全部いい思い出なんだよな。朝起きるのが面倒だったのも、先生に怒られたのも、宿題が面倒だったのも」

「子供の頃は何も知らないから、くだらないことでも勉強になるから充実してたんだよ」

なるほど、と思う
普段はぼーっとしてるクセに意外とこういうことは考えている
そんなこいつを僕はわりと気に入っている
友達だとかそんなふうに思ったことはない
けど、こいつとは何故だか縁が続いていた
それは、単に家が近かったからかもしれないし、それ以外の何かなのかもしれない
その何かにひかれてか、難しい質問をしてみる

「今もいい思い出になるもんかね」

もちろん、今まで歩んできた道すべてを『いい思い出』だったなんて言える程年をとってもいないし
ましてや大人にだってなっていない
忘れることや、どうにか奥底に落として隠すことでやり過ごしていることだってある
けど、それはもう過ぎ去ったことで、もう戻らない
ならば、先はどうなんだろう。自分は今を『いい思い出』にできるんだろうか
どう答えてくるのか少し期待を持つが、返答はいたってシンプルだった

「さあ」

そうだ、こいつはこういうやつだ
きっと表向きはこいつのが僕より暗い
けど、僕のように後ろばっかり気にしていたり、前に対して諦めて切り拓くことをやめていないのだろう
こういうやつが最後には笑っていられるに違いない

だから、密かに、ほんの少し、本当に少しだけ心の中でこいつを応援してみる
きっと僕にはたどり着けなかった所に行けるんじゃないだろうか
僕には見つけられなかったものを見つけられるんじゃないだろうかと思って

ほんの一秒だけ、こいつの横顔を見てみる
…マヌケ面だ。けど、何かを諦めていない顔だ
その何かがなんなのかは僕にもわからない
けど、僕にはない何か、だ

だから、もう一度。

また一秒だけ横顔を見る

そう、こいつに気づかれぬよう
ほんの一秒だけ

横顔を見る