クラブが終わり、校門を出ようとした時、声をかけられた
声をかけてきたのは同じクラスの娘だった
4月に同じクラスになってから、仲良くなった娘だ

「今帰り?」

いつものとおり、明るく声をかけてきた

「うん」

もちろん、こちらも明るく返す

「一緒に駅まで行こうよ」

断る理由はまったくないので了承すると、彼女は俺の横に並んで歩き出した
ふと彼女の顔を見るといつもとは違う表情をしていた
これは…
悲しみ?
一瞬泣きそうな顔をした後、笑顔になってこちらを向く
見ていたことに気付かれるのも照れくさいので逆に前を向いてしまう
そんな俺の様子に気付いてか、笑って
けれど真剣な口調で

「私ね、時々すごい不安になるんだ」

いきなりの言葉に反応できないでいると

「好きな人と付き合っているのに、それがとてもいけないことのような…
 悪いことをしているような気持ちになるの」
「…好きな人と付き合っていていけないことはないでしょ」
「彼には私なんかは映っていないような気がするの」
「彼氏は君のこと好きじゃないの?」
「好きって言ってくれてるけど、優しい人だから…」
「もし、嘘で好きって言ってるなら、それは優しさじゃないでしょ」
「うん…」

どうやら本気で悩んでいるらしい
それっきりうつむいてしまう
俺にそんなこと言われても…とも思うが、頼ってきてくれているのに
無下にするわけにもいかない

「俺も、時々あるよ」
「え?」

彼女が驚いたように顔を上げる

「好きな人を好きでい続けていいのかな、って」
「なんで?」
「その娘には彼氏もいて、彼氏以外はまったく目に入ってないしね」
「でも、想うことに意味があるんじゃない?」
「それに、その娘の彼氏ってのがダラしないやつで、頼りがいはないわ、アホだわ
 その娘のことを不安にさせるわで…そんなやつに勝てないのかと思うとちょっとな」
「恋愛なんか勝ち負けじゃないし、プライドで恋するわけじゃないじゃん」

あまりにも予想でき過ぎた返答に思わず笑顔になってしまう

「そりゃそうだ」
そんな俺にひきずられてか、彼女も笑顔になりながら言う

「それに、そんな不安にさせるような人からだったら奪っちゃえばいいじゃん」
「だろ、そういうことだろ」
「え?」

急な話題転換にちょっとついてこれてないといった感じの顔で尋ねてくる

「どういうこと?」
「君も、その努力ってことさ」

俺の言葉にはっとして、でもやっぱり不安げに

「でもさ…」
「今なら君が付き合っていて、一番近くにいるんだから、一番近くで努力できるだろ?
 努力してる人は目に映るし、それで、映させ続ければいいさ」
「うん…」
「やりなよ、俺も努力するから」

今日一番の笑顔で、彼女は答えてくれた
「そうだね、ありがとう」

「じゃ、俺こっちの電車だから」
「うん、じゃあまた明日ね」

お互いに手を振って別れる
ちょうどいいタイミングで駅に着いていた
これ以上話していたら俺の方がもたなかったと思う

きっと君の不安はいつか消える
君の努力によって
きっと俺の不安は消えない
それも、君の努力によって

でも、きっと時が経てば新たな不安が生まれるのと共にそれも消えるだろう
人生って、そんなもんだ
そんなことを思いながら各駅電車に乗りこんでいく、ある日の夕暮れ