毎日が過ぎていく
特に何も起きず、特に何もできない自分のまま、ただ毎日が無為に過ぎていく
相変わらず僕とあの娘の間には8Mの距離
けれど、その距離が臆病な僕にはちょうどいい
毎日、友達に囲まれている彼女を
毎日、ぽつんと一人で眺めている僕

さて、そんな僕にも学校にたった一人だけ友人がいたりする

放課後、一人教室に残って本を読んでいるとそいつは来る
「やあ、飽きもせずまた本を読んでいるのか」
軽く手を上げながら近づいてくる男に向かって返事をする
「飽きないね」
僕の短い返事が気になったのか、おや?という顔でこちらを見てくる
「何の本読んでんだ?」
「ヒトラーの歴史」
「おもしろい?」
「つまんない」
「なら読むなよ…」

ノリが妙に軽いこの男
しかし人は単純には判断できない。こいつこそ現サッカー部キャプテンにして
学年トップの成績を持つ男。ちなみに顔は上の中
まあ、僕のような人間からすれば正に完璧な男
そんなやつがどうして友人なのかというと…
たしか、いつかの放課後に今日と同様に本を読んでいたら…

静かな教室にガラッという扉を開ける音がする
「あれ、先客?って…お前か」
もちろんこの時なんてこいつと関わったことなんてなかった僕は無視して本を読み続けた
すると、横にやってきて
「お前、おかしいよな?」
と、いきなり言われた挙句
「友達もいないのに学校きて楽しいか?」
などと言ってくる始末。初の会話でこんなことを言えるとは大したやつである。思わず
「つまらないよ」
と、無愛想に答えてしまった。するとこいつは悪びれることもなく笑って
「俺もだよ。学校は嫌いだ」
予想外の返答に驚く。だってこいつは成績優秀、運動能力高、エネルギー全開なやつだ
しばしの間ぽかんと口をあけてしまっていると
「お前はどうだ?学校好きか?」
と言ってくる。あまりに変な質問に少し戸惑ったけど、ここまで言って嘘をつく必要もないので
「嫌いだよ」
と答える。するとやつはニカっと笑ってこう言った
「だろ。俺たち仲間だな」

まぁ、こんなやりとりがあったわけだけど…
こいつが何で学校を嫌いなのかはわからないし、知る気もない
そのままにしておく。それが僕とこいつとの距離
近くもなく、特に遠いこともない

僕が僕で、こいつがこいつでいられる距離

その距離を確認し、こいつに言う
「いつまでも部活サボってないでさっさと戻れよ」
僕はそう言って本をしまい、教室を出ようとすると、後ろから
「おう、またな」
と微妙な間があってから返事が返ってきた

いつまでここにいるんだ?

という疑問は
彼との距離を確認し、口にはせずさっさと一人で校舎を後にする